2007年04月28日

ジャムウ探検隊

 山並みを眺めながら朝食前にチンタラヨガをやるのが巫山の日課である。長いこと、こうしてチンタラヨガを二〇分ばかりやっては腸の調子を整えて、生き長らえてきたのだ。生き長らえるためのもう一つの秘法は、鬱金を常飲していることだ。
 鬱金とターメリックは同じではない。もともと分類学上の種類が違う。鬱金は熱帯アジアに生育するショウガの仲間というよりはその親玉であると言った方がよい。ターメリックはインド亜大陸に生育し、外用、殺菌などに用いるが、鬱金は消化器系に著効があり内服する。どちらかというと、性質はガジュツに近い。クスリ鬱金、ムラサキ鬱金、バン鬱金、トゥムゥ・ギリンなど多くの種類の鬱金が存する。鬱金は生命の素であり、神が与えた賜うた薬草である。太陽光の如く、大日如来の光輝の如く鬱金は黄金色に輝いている。
 巷に言う春鬱金、秋鬱金なるものは植物分類学上存しない。花の咲く季節が違うからそう名付けたのだろうが、どうもゼニ稼ぎの臭いがする。
 ジャムウは母親と娘が造る。ばあさんは呪文を唱えながらもっぱら治療に専念している。三〇センチもあろうかという大きな下ろし金で鬱金を何十個もすり下ろし、手で搾って金盥(たらい)に落とす。ナツメグも同じようにすり下ろす。見ていても重労働である。ラギ、タマリンド、塩などを加え攪拌して出来上がる。出来上がったジャムウは荷車で朝市に持って行って売り捌く。
 二度目のジャムウ探検隊のときだった。ホテルのエアコンが一晩中うーん、うーんと唸っていた。お陰で巫山は風邪を召し発熱した。足の裏まで熱い。熱射されたバリ・ブサキ寺院の石段の熱がそのまま足の裏に伝わってくる。まるで日輪を踏んでいるかのようだ。あちこちで灼熱の蜃気楼が立ち昇っている。暑い。慌てて持参した葛根湯を大量に服用したが一向に解熱しない。ジャムウおばさんの家で風邪のジャムウを作ってもらい一気に飲み干し、ホテルで一睡すると熱は引いた。ジャムウは効く。葛根湯なんぞ足下にも及ばない。
 jahe (トゥムゥ・ギリン)とkencur(バンウコン)にタマリンドを加え、最後にラギ(古米)と塩を入れてよく攪拌すると風邪の特効薬が出来上がる。
 ジャムウは母親から娘へと口伝で伝えられてきた伝統医学である。ジャムウ造りも治療もみんな女がやる。初潮から閉経まで女性専科のジャムウが揃っている。男は全く持って埒外なのだ。
 ところで沖縄の鬱金(うっちん)は効用が甘い。ジャムウの鬱金は熱帯の陽射しのように強烈な辛さと苦みを伴うが、良く効く。胃腸にビリビリとくる。そのため人々は通常、MADU、つまり蜂蜜をかけて飲んでいる。町のジャムウ屋の店先には蜂がわんさと群がっている。
 こうした風情も近代化の波に飲み込まれようとしている。インドネシアやインドでは糖尿病患者が幾何学的に増大しつつあるという。若者達は競って伝統食をやめ、ファーストフードに走っている。摂取された砂糖は浄化されず、ランゲルハンス島からインシュリンが消えていく。
 食のグローバル化の近未来像である。

posted by 巫山 at 09:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説ディクシャ
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